政府機関が公表している情報
賛成派と反対派それぞれの主張の例
憲法9条の議論をする前に、現在の日本国憲法を正当な憲法としてみなしてよいのかという議論をする必要があると思われる方もいるかもしれない。しかし、その議論はこの争点から逸脱しているため、今回は、宮澤俊義の8月革命説を踏襲し、日本国憲法は正当な憲法であるという前提で議論を進めていくこととする。
憲法9条は改正すべきである
憲法9条を改正すべきである。たしかに、憲法9条の存在が日本を戦争から遠ざけてきたかもしれない。しかし、憲法第9条が禁じているのは日本が他国を侵略することであって、それには他国が日本を侵略することを禁止する効果はない。そのため、他国(たとえば冷戦時代のソ連)に日本への侵略を思いとどまらせていたのは、憲法9条ではなく日米安保体制の抑止力であった(伊藤、p.11)という意見もある。また、軍隊を持つことが直ちに開戦をもたらすわけではない。加えて、強力な軍隊が存在することが、他国からの攻撃の抑止力になることもありうる。伊藤は、武力を行使してみればどうなるかという結果が、あらかじめ相当程度確実に交戦者双方に見通される場合、つまり武力による決定の担保がある場合には、あえて武力を行使するまでもなく、政治的な解決に到達することができるはずである(p.12)と述べている。このように、憲法9条は日本の戦争回避において一定の効力を有しているものの、他国からの侵略に対しての有効性に関しては疑義がある。そこで、政治ドットコムで提案されているように、「第2項 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」の後に、「第3項 自衛隊はこの戦力には含まれない」と追記することで、憲法上の自衛隊の存在を明確にすべきだと思う。こうすること、他国への侵略戦争を否認を継続すると同時に、他国からの侵略への抑止力を向上させることができるであろう。
参考文献
伊藤憲一(2007)『新・戦争論 積極的平和主義への提言』新潮社
憲法9条は改正すべきではない
憲法9条は改正すべきではない。たしかに、憲法9条の存在が日本を戦争から遠ざけたという主張に対し、それは因果関係ではなく相関関係であり「憲法9条があった」状態と「戦争に巻き込まれることがなかった」状態とがたまたま同時期に生じていただけという反論があるかもしれない。しかしながら、憲法9条の存在と戦争からの回避の継続との関係は、それら以外にも多数の要因が関与する極めて複雑な関係であるため、憲法9条の存在が戦争からの回避の継続に影響を及ぼしていたこともまた及ぼしていないことも証明するのは困難である。一方で、憲法9条が存在した戦後60年以上戦争に巻き込まれることがなかったという歴史的な事実は厳然として存在する。また、憲法を改正すれば、アメリカの世界戦争の餌食となって、戦争に加担する可能性が限りなく大きくなる(野村、p.23)という意見もある。徒然草第百二十七段に「あらためても益なき事は、あらためぬをよしとするなり。」という一節がある。憲法9条の改正は、まさにこの「あらためても益なき事」に該当するのではなかろうか。
参考文献
野村昇平(2009)『国の理想と憲法「国際環境平和国家」への道』理想社
コメント